【判例紹介】未分割の相続分を含む包括遺贈に対して遺留分減殺請求権を行使した場合における遺産分割の対象(大阪高決平成29年12月22日判時2395号67頁)

第1 事案の概要

1 被相続人が死亡した時点における相続人は、被相続人の妻(D)、被相続人と妻との間の長女(原審相手方・抗告人)と二女(原審申立人・相手方)であった。その後、妻は、全財産を長女に遺贈する旨の遺言(以下「本件遺言」という。)をした上で死亡した。二女は、長女に対し、本件遺言による遺贈について遺留分減殺請求をした。

なお、被相続人の遺産は、土地の共有持分(3分の1)、土地、建物、20万円弱の定期預金及び被相続人が経営していた会社の株式(非公開株式)である。

2 本決定の原審である大阪家裁は、長女と二女が、相続分に関し、長女が8分の5、二女が8分の3とする旨の合意をしていること、遺産分割方法について、二女は換価分割の方法を希望しているが、長女は特に希望を有していないことを前提とし、さらに双方の特別受益に関する主張を排斥した上で、遺産である不動産の競売を命じ、その売却代金から競売費用を控除した残額を、長女8分の5、二女8分の3の割合で分配する旨の審判をした。

3 長女は、これを不服とし、即時抗告をして、原審判の取消しと大阪家裁への差し戻しを求めた。

抗告理由のうち本件の主要な論点となったのは、要旨、

分割対象を誤っている(最判平成8年1月26日民集50巻1号132頁(以下「平成8年判決」という。)によって、包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有さないとされており、本件の場合、遺産分割の対象となるのは、妻が相続した相続分2分の1を除く、各遺産の2分の1に限られるべきである。)

との主張であった。

 

第2 判旨

「D遺言書による抗告人に対する包括遺贈は,本件相続に係るDの相続分を含んでいる点で,そもそも最高裁平成8年判決と事案を異にしているから,相手方が上記包括遺贈に対し,遺留分減殺請求権を行使したとしても,上記包括遺贈の対象とされた本件相続に係る亡Dの相続分がただちに本件相続に係る遺産分割の対象財産としての性質を失うものではないというべきであって,この理は,相続分の譲渡によって共同相続人として有していた一切の権利義務が包括的に譲受人に移転し,以後当該譲受人が遺産分割(遺産分割協議及び遺産分割審判)に当事者として関与する地位を得る(東京高等裁判所昭和28年9月4日決定・高等裁判所民事判例集6巻10号603頁参照)ことに照らしても,明らかであるというべきである」

→ 未分割の相続分を含む包括遺贈に対して遺留分減殺請求権を行使した場合における遺産分割の対象は、遺産全体であると判断した。

 

第3 検討

1 遺贈を対象とする遺留分減殺請求の効果

→ 遺留分減殺請求がされると、遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属する(最判昭和41年7月14日民集20巻6号1183頁、最判昭和51年8月30日民集30巻7号768頁、最判昭和57年3月4日民集36巻3号241頁等)。

 

2 その結果としてどのような法律関係が形成されるか(遺留分減殺請求の結果取り戻された財産が遺産分割の対象たる相続財産に復帰するか)

→ 特定遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない(最判平成8年1月26日民集50巻1号132頁)。

= 取り戻された財産は相続財産に復帰せず、減殺者と被減殺者とのいわゆる物権法上の共有になり、その共有関係の解消は共有物分割訴訟になる。

∵ 民法は、減殺請求をその者の遺留分を保全するに必要な限度で認めており(1031条)、総債権者の利益のために生ずる詐害行為取消権(民法425条)のような効果とは異なること、減殺請求権を行使するか否か、これを放棄するか否かを各権利者の意思にゆだねていること(1031条、1043条)、また、受贈者の果実返還義務(1036条)、目的物を処分した場合の受贈者の価額弁償義務(1040条)、受贈者、受遺者の価額弁償選択権(1041条)等の定めからうかがえるように、減殺の結果生じる法律関係を、相続財産との関係ではなく、減殺請求者と受贈者、受遺者との個別的法律関係として規定している。

 

3 被相続人の財産全部を対象とする全部包括遺贈の場合

→ 財産全部の包括遺贈に対して遺留分減殺請求権が行使された場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない(最判平成8年1月26日民集50巻1号132頁)。

∵ 財産全部の包括遺贈は、遺贈の対象となる個々の財産を個々的に掲記する代わりにこれを包括的に表示する実質を有するもので、その限りで特定遺贈と性質を同じくする(=全部包括遺贈を特定遺贈の集合体と捉える)。

 

4 遺言による相続分の承継と遺留分減殺請求について(本件)

⑴ 問題の所在

平成8年判決の、

・ 特定遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない。

・ 財産全部の包括遺贈に対して遺留分減殺請求権が行使された場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない。

の射程が、本件のように遺言によって承継された「相続分」に及ぶか否か。

 

⑵ 各見解からの帰結

① 平成8年判決の射程は遺言によって承継された「相続分」に及ぶ

→ 妻が、本件遺言で被相続人の相続に係る2分の1の相続分を長女に承継させたことによって、それに対応する被相続人の遺産の2分の1は、被相続人の遺産分割対象から逸出し、もはや被相続人の遺産分割の対象とはならないことになる。

② 平成8年判決の射程は遺言によって承継された「相続分」に及ばない

→ 妻の遺言によって、被相続人の相続に係る2分の1の相続分が妻から長女に移転したとしても、被相続人の遺産分割の対象財産は依然として被相続人の遺産の全体である。

 

⑶ 相続分の譲渡の法的性質

→ 積極財産はもとより消極財産を含む遺産全体に対して共同相続人の1人が有する包括的持分権ないし相続人たる地位を譲渡することであり、これにより共同相続人の1人として有する一切の権利義務が包括的に譲受人に移転し、譲受人は遺産分割協議及び遺産分割審判の当事者となるという法的効果を発生させるもの(最判平成13年7月10日民集55巻5号955頁、最判平成26年2月14日民集68巻2号113頁)。

= 相続分が譲渡された場合、その譲受人は、譲り受けた相続分をもって遺産分割手続に参加することになるので、譲り受けた相続分に対応する遺産についての遺産共有状態が解消されることはない。相続分は、他の共同相続人に対しても、第三者に対しても譲渡が可能なものであるが(民法905条参照)、仮に、第三者が相続分を譲り受ければ、第三者が遺産分割手続に参加することになるのであって、共有物分割手続を行うことにならない(本決定に引用されている東京高裁昭和28年9月4日決定(高等裁判所民事判例集6巻10号603頁)も、その旨判示している。)。

 

このような理解を前提とすると、相続分の譲渡は、共同相続人が遺産を構成する個々の財産に対して有する物権的持分の譲渡とは異なるものである(=平成8年判決の射程は、遺言によって相続分が譲渡された場合には及ばない。)。

→ 未分割の相続分を含む包括遺贈に対して遺留分減殺請求権を行使した場合における遺産分割の対象は、遺産全体となる。

 

(弁護士 福本直哉)

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